時代の転換点。
こんにちは!
本日は「時代の転換点。」と言うテーマを掲げ、コラム的にお送りできればと思います。
それでは、まいりましょう。
■思想が変われば、装いも変わる。
さて、以前も本ブログにおいて述べていたことですが、「装いとはその人の考え方や思想が現れるもの」であると私は考えています。
TPOを踏まえて着こなしを変えることはファッションの基本だと考えていますが、実際には「(一部を除いて)このシーンにおいて適切な装いはコレである。」と言う決まりがあるわけではなく、「そのシーンにおいて着るべき装いは何が適切か、どういう着こなしが良いのか」を、その人が考えた結果が装いとして表面に現れてくるわけです。
このような中で、企業の経営と同じように、ファッションも外部環境や時代の価値観に大きく影響を受けるものですが、ここ数年の時代の変化は、私たちがこれまで過ごしてきた数十年と言う時間の中でも、間違いなく大きな変化、未来から振り返れば、ある種の”時代の転換点”であったと評される時代な気がしています。
気候の変化、テクノロジーの変化に加えて、コロナ禍や戦争等による生活環境の変化は、少なくとも私が物心付いた頃からみても、これまでにない、ドラスティックな変化を遂げているように思います。
当然これらの環境や社会的な変化は、人々の考え方や思想にも影響を及ぼします。
”装い”と言う観点でいえば、スーツを着て仕事をするという価値観は崩れさり、襟付きのシャツやポロシャツどころか、カジュアルウェアとされていたTシャツにチノ、デニムで仕事をすることを許容する職場も増えてきているようですし、逆に言えば、スーツやジャケパンにネクタイを締めるという、本来仕事をするための装いとして適切であったはずのスタイルは、今では”今日は何かあるの?”と聞かれるほど、”特別な装い”へと変化しています。
私個人の事でいえば、スーツ好き、ジャケパン好き、ネクタイ好きを自称し、季節を問わず、ドレススタイルを好んで着てきた私も、今年の夏は大きくスタイルが変わり、軽装と言う、時代の波に乗るスタイリングへと変わりました。
この背景には、自分の中にある、いくつかの大きな考え方の変化がありました。
■より自然体へ
まず大きな変化は、スーツやジャケパン、ネクタイと言ったドレススタイルに対する、世間の見方の変化です。
今でも個人的に最も男性がカッコよく見えるのは「スーツ」であり、ネクタイを締めたスタイルが好きという自身の価値観は変わりませんが、少なくとも日本の夏場においてスーツやジャケパンにネクタイを締めるというスタイルは、ビジネスにおいては”マイノリティな装い”であるように感じています。
もちろん業界や業種、ポジションによってはクラシックなスタイルを求められる職種もありますが、決して多くはありません。
その背景には、クールビズ導入のきっかけとなったエネルギーの需給バランスの崩れによる、エコに対する意識の高まりがあります。東日本大震災における福島の原子力発電所の事故によって電力の供給量が減少することで、需要も絞る必要に迫られました。
これによって夏場でも空調は「28度」に設定し、使用電力の削減を試みると同時に、ビジネスウェアの「軽装」を進めることになったのが、クールビズ導入のきっかけでした。
一度軽装に慣れてしまうと、それが元に戻ることはなく、年々緩やかに、しかし確実にビジネスウェアのカジュアル化が進んできた中で起きたのが、新型コロナによるパンデミックです。これによって在宅するビジネスマンも増え、ビジネスウェア(アパレル)の需要が大きく減少するとともに、より加速度的にビジネスウェアのカジュアル化が広まったように思います。
更に、より大きな概念でいえば、地球温暖化(※)による自然環境への配慮と言う価値観の高まりも見逃せません。
※基準をいつにするかによって諸説あり
これらの社会的変化によって「軽装=礼節を軽んじている」と言う旧来の価値観から、「軽装=エコ(環境に配慮している服装)」と言う価値観の転換が起きたように感じています。
よって、それまでは相手に対する敬意や礼装を表現する1つの手段であったスーツやネクタイも、今では逆に、軽装の相手を威圧してしまったり、気を遣わせてしまうことさえあったりします。
この、スーツやジャケパン、ネクタイに対する世間の見方の変化に呼応するかのように、私の軽装や礼装を表現するための装いに対する考え方も変わりました。
そして同時に、年を重ねたことによる、身体負荷に対する考え方の変化もありました。
私が子供の頃には30度を超えると大騒ぎだった記憶がありますが、今では40度と言う気温になる場所もありますし、都内であっても夏場の35度超えはあたりまえ。しかも湿度も高いので、息さえするのも苦しくなるような日があったりします。
そのような環境下において、スーツやネクタイを着用する装いと言うのは、あきらかに不自然です。もちろん、冠婚葬祭をはじめ、そういった装いが求められるシーンはありますが、少なくとも普段のビジネスにおいて求められるのか?と言うと、上述したような社会の価値観の変化もあって、稀ですよね。
元来、季節や気温に応じて変えるというのが服の持つ根本的な機能であると言うことを考えると、高温多湿の日本の夏場にスーツやネクタイを締めるのは、身体的に大きな負荷を感じることに加えて、装いとしての不自然さが気になるようになりました。
こういった考え方、感覚の変化によって、TPOが許す範囲で、より身体的負荷の低い、季節に合った”ナチュラルな装い”をするようになったのが、この2022年の夏だったように思います。
■時代の転換点
誤解の無いように言いますと、今でもクラシックな服が大好きです。好きなスーツやジャケットに袖を通せば、今でもテンションが上がりますし、気分も良い。やっぱりクラシックな服は良いなぁ~としみじみと思うのですが、そんな服好きの私が上述したような感覚を持つようになったのは、ある意味では"時代の転換点"なのかなと、我ながら思ったりしています。
実際、トランクショーなどにおいては仕掛中のモノはありますが、恐らくスーツを仕立てるということは、今後はかなり減るのだろうと思っていますし、自らの服が溢れ出ているというワードローブの状態もありますが、ジャケットなどを仕立てるにしても、今まで以上に厳選したオーダーになってくるのかなとも感じています。
これからもクラシックな服に携わる全ての方へのリスペクトの想い、応援する気持ちはしっかりと持ちながら、自分の服に対する考え方、付き合い方、楽しみ方を時代の変化に合わせてアップデートしながら、時代の転換点を乗り越えていければと考えています。